漫画制作サポートAI「コミコパ」は何ができ何を目指すのか(コミティア146レポート)

漫画制作サポートAI「コミコパ」は何ができ何を目指すのか(コミティア146レポート)

2023年12月3日(日)、東京ビッグサイトにて開催された「COMITIA(コミティア)146」にマンガノが企業出展しました。ブース内のステージではマンガノ大賞募集開始にあわせて3部構成のトークセッションが開催されました。

この記事では、第2部「漫画制作サポートAI「コミコパ」は何ができ、何を目指すのか」の模様をお伝えします。

トークセッションの第2部「漫画制作サポートAI『コミコパ』は何ができ、何を目指すのか」へは、アル代表取締役のけんすうさんと少年ジャンプ+副編集長の籾山さんをお招きして、漫画制作とAIの未来について熱く語っていただきました。
その貴重なお話の一部をご紹介します。

【参加者プロフィール】

アル株式会社けんすう

新興テクノロジーで「クリエイティブ活動を加速させる」事業に取り組む、アル社の代表。sloth、marimoなど運営。

Xアカウント:@kensuu
ジャンプ+籾山

ジャンプルーキー!、マンガノ、MANGA Plus by SHUEISHA等のWEBサービスの運営を担当するジャンプ+副編集長。

Xアカウント:@momiyama2019

コミコパはどんなサービス?

アル株式会社けんすう(以下、けんすう)
コミコパは、アル株式会社と少年ジャンプ+編集部さんが共同運営する漫画制作をAIでサポートするというサービスで、ChatGPTを使用して「漫画について色々とAIがサポートしてくれますよ」というツールになっています。作品のテーマやタイトル、キャラクターの命名からアイデア出し、励まし、さらにはセリフの短縮など、様々な支援が可能です。

サービス実績は順調で、毎月2.5万人が利用し累計38万回*1の相談を受けています。1人あたりの質問数が多いため、継続的に利用されている印象です。最初は一発ネタ的に使われるかなと思っていましたが、実際には漫画制作のツールとして積極的に利用されていると感じます。AIがクリエイターを補助する強力なツールとして認識され、良質な作品の制作を支援していきたいという思いでやっています。

多くのテレビや新聞、雑誌などで取り上げられ、ポジティブな文脈で「AIを使った漫画制作」が注目を集めています。プロの作家さんにも積極的に活用されていて、例えば吉本ユータヌキさんは「あした死のうと思ってたのに」という作品にコミコパを活用されているようで、キーとなるセリフ「きみもひとりぼっちなんだね」もコミコパからの提案を採用したそうです。

セリフの提案やキャラクターの行動・言動のイメージ支援が特に評価されていて「自分と異なる性格のキャラクターを書く際に役立つ」という声が寄せられています。

コミコパのような対話型AIは漫画制作をどう変える?

けんすう:対話型AIが漫画制作を変えるイメージはありますか?

ジャンプ+籾山(以下、籾山)
漫画制作は、通常孤独な作業が多いと思っています。作家さんは長時間をかけて漫画を制作し、編集者とは打ち合わせをしますが、とはいえ基本的には1人でネームや原稿を制作します。そこにコミコパがあると、作家は相談しながら漫画の内容を検討し、いつでも壁打ちしながら制作が進められるようになるかもしない。そこが漫画制作において最も大きいのかなと思っていました。

けんすう:利用者のデータの中身は見れないので具体的な相談内容は分かりませんが、利用回数から相談や励ましを求める利用者が多いことがわかりました。利用者が励ましを求めるニーズが意外に多く、そのニーズが継続的に利用されていることから、相手がAIであってもモチベーションを引き出してもらうことは、馬鹿にできない効果だなと思いました。
他にAIによって変わりそうなところはありますか?

籾山:コミコパはセリフの短縮や読みやすさ、誤字脱字の修正など、漫画制作に関連する部分をチェックしてくれるので、自分では気づかない改善点を提案してくれたりとか、読みやすさや面白さが向上するような、そういう中身に関するところもすごく信頼ができることが多いと思いました。

けんすう:1つのセリフを20パターン提案してもらって、それを見て人が選んだり参考にすることで、脳を刺激してくれるのがいいという声を聞きます。

籾山:自分が担当している作品でもコミコパを使ったことがあります。作家さんが調べるのに困った時に、普段は編集者も協力しながら時間をかけて資料を調査して情報を提供することもありますが、コミコパを使えばパッと調べ物ができるので、本当に重要な部分の執筆に時間を使えます。これまでも紙とペンからデジタルへの移行やスクリーントーンの使いやすさ向上など、クリエイティブな部分に時間をかける比率が高めやすくなっていて、それがより一層進むのかなという気もしました。

けんすう:方言の正確さを調べるのは、これまで難しかったらしいんです。方言のサイトや本はあっても、個別具体の情報を調べられなかったのが、コミコパでは大阪弁と京都弁の使い分けなども正しく教えてくれるので、結構いいというのはあります。また、AIが作品の内容にまで助言するというのは、これまでの進化してこなかったところができているので、変わりそうだと思っています。
対話型AIを使うと、AIが内容を考えてくれると思う方もいますが、内容とかは人が考えるのが圧倒的に良いです。考えたものをサポートして「キャラ名30人は考えておきます」とか「この言い方の表現を10パターン考えておきます」といったところで使えるので、サポート的な時間短縮のところが効いている感じがします。

籾山:よく「コミコパが編集者の代わりになるんですか?」みたいな話も出たりするんですけど、時間を短縮する部分はコミコパを活用し、重要な部分に関しては編集者と打ち合わせして大きな方向を考えるような、そういう使い分けをしている作家さんも多いのかなと思います。

けんすう:昔は編集者さんが作家さんの家まで原稿を取りに行っていましたが、今はインターネットで送れます。この変化が編集者さんの仕事を無くすわけではなく、実際は面白い作品を創る支援が編集者さんの一番の仕事で、AIはむしろ繁雑な業務を軽減するところがポイントかなと思います。

次の10年間でクリエイティブ活動はどう変わる?

けんすう:次の10年間でクリエイティブ活動はどう変わるか?このまま進んでいくとこの10年間どう変わりそうっていう予想はありますか?

籾山:そうですね。昨今のペイントツールの進化は大きかったですね。そして10年前には、AIがこんなに発展するとは想像もしていませんでした。次の10年は正直、想像つかないです。

けんすう:僕も想像がついてないっていうのが正直なところです。でも、わかりやすくありそうなことは、AIとかツールの値段が大幅に下がって来るだろうと思います。エンジニアのプログラミングもAIのおかげで大幅に減少していて、うちのメンバーだとコードの量が8割も減った人もいます。そうなると、以前は有料だったサービスが無料で提供できるようになって、誰でも創作活動ができるというのがあり得るかなと思ってます。

籾山:AIの対話とはちょっと違うかもしれませんが、色々な権利的な問題もあると思うんですけど、アシスタントさんが何時間もかけて作業している背景やモブキャラがたくさん出るシーンの執筆みたいな部分でも変わることはあるんでしょうか?

けんすう:そうですね、ネーム作りやラフ段階で、色々なツールを使ってパッとできる。例えば、集英社さんの「ワールドメーカー」みたいなツールによってネーム制作コストが下がることもあると思います。それと、コミコパでもやってるみたいに、編集者さんへのメッセージ作成やフィードバックのメール化みたいな人とのコミュニケーションコストの部分もコスト削減に結構効くんじゃないかと思います。

籾山:たしかに編集者とか担当編集とかアシスタントさんへのコミュニケーションで、そこに結構ストレスというか、気を遣っている作家さんが多いと思うので、そこはすごくありそうですね。

けんすう:そうなんですよね。「失礼なこと言って嫌われたらどうしよう」みたいなところって結構な気の遣い方をしますが、お互いに3行くらい書いたらちゃんとした文章をつけてくれるというのも良いかなと思います。
3D空間でセットを組み、そこでのアングルを基に絵を描いている漫画家さんもすでにいらっしゃいますが、これがVR空間で直接見られるようになれば、さらにリアルな視点での描写が可能になるというのは、すぐに来そう気がします。

籾山:背景とかを描くときに、単純に3Dを作るだけではなくて、自分がその中に入ってカメラのアングルを決めるとかそういうことですね。

けんすう:そうですね。Googleストリートビューみたいな感じで、それをつけるとパリの街並みを歩くことができれば、現地に行かずともリアルな描写が可能になったり、自分で戦国時代の風景を再現して歩いてみることで感覚が格段に変わってこれまで想像力で補っていた部分にリアリティを加えられるかもと思っています。

籾山:少し話が戻りますが、多くの作家さんが一生懸命に良い演出やネームに時間をかけて考えられていると思います。それが自動で出てしまうと、私はコミコパの運営側の人間なので変な意見かもしれませんが、怖さを考えたりもします。その辺はどうでしょうか?

けんすう:AIが生成するものは、大体がみんなが「そうだよね」と思う平均的な内容になりがちですが、漫画制作は平均から外れたものを生み出す必要があるので、AIはこの点は弱く感じます。一方で、作家が編集者へ送るメールなど、平均的な品質で十分な場合にはAIが大いに役立つので、クリエイティブの一番大事なところだけに集中できそうです。いろんな有名作家さんに話を聞くと、AIを使えば描きたい漫画をもっと多く描けるかもしれないと思っている方が多いです。

籾山:AIを活用することで苦手な部分を補い、得意分野や個性、強み自体は今後10年も活かし続けられるということですね。

けんすう:そうですね。逆に、平均点の成果だけを出す人が最も困るかもしれません。すごい発想が良いとか創造性を持ちながら、例えばメールの書き方など他のスキルが追いつかない人が、これを機に引き上げられるのが一番良い気がします。
AIと離れてしまいますが、pixivFANBOXのようにファンから直接支援を受けて活動を続けるケースが増えて、アルバイトなしで月15万円から20万円を稼げる作家さんが増えています。これも今後10年で増える傾向にあると感じています。
あとはNFTを売るとか、Skebで絵を描いてあげるとかで活動している方が、ここ数年すごく増えてる感じがするので、それは面白いですよね。

籾山:これまでは創作以外の事務作業を多くの会社やいろんな人に頼んで、もしくは一緒に協力してやっていたことが、AIや技術の進歩により作家さんは創作活動に集中し、その他の作業を技術に丸投げできるようになり、活動がしやすくなるということですか?

けんすう:そうですね。平均的な能力値の掛け算でやれてた人達よりも尖ったクリエイティビティとか、とにかく描きたいみたいな人が有利になってく時代に10年くらいでなってくるのかもしれないですね。
コミュニケーション能力や社会人経験が求められるシーンはありますからね。それがなくなって、持ち込み前から例えばマネタイズできるとかになってくると、だいぶ変わってくるかなと。

グローバルな展開はどう変わる?

籾山:漫画を書いて海外の読者に届けるのはハードルが高いと思うんですが、ChatGPTは翻訳も得意ですもんね。

けんすう:そうですね、うちでも翻訳会社を利用していますが、これまで最高とされてきたDeepLでさえ、翻訳家の評価では約60点くらいらしいです。DeepLとChatGPT-4のTurbo、そこに最新の技術を組み合わせると、翻訳家から90点程度の評価を受けることができるので、そこまでいくと、かなり安心できるレベルに達していると感じます。来年にはグローバル化がずっと簡単になる気がしますね。

籾山:これまでは漫画の独特なセリフを自動翻訳するのが難しいと言われてきましたが、この数ヶ月の技術進化を見ると、10年以内には自動翻訳で漫画を上手く訳して、画像を入れたら、一気に10言語くらいに変換できるなんてことも、あり得る話ですよね。

けんすう:ありそうですね。これまでは英語や中国語までの翻訳が主流でしたが、AIの力によって200言語への翻訳が可能になり、全く知らない国の人にも読まれることもあり得るので、たとえニッチな漫画でも世界的に見れば大きな市場を持てる可能性がありますね。実際にナルトの掲示板を翻訳した例では、この1、2ヶ月で技名やキャラ名まで完璧に翻訳できるようになり、実用的なレベルに達していると感じます。

籾山:X(旧Twitter)での自動翻訳のボタンがあって、アカウントには様々な言語で海外の読者からのリプライが届くようになりました。これまでは出版社が翻訳した作品を読んだファンが多かったと思いますが、そういったことが個人で活動している作家さんでも、簡単に出来やすくなってくるということですよね。

けんすう:そうなるともう日本市場って全世界の1,2%しかないので、全然違う世界になりそうですね。

今後、コミコパはどんな展開をしていく?

籾山:漫画の編集者としての願いは、作家が創作により集中できるよう、重要な創作活動に時間を割ける環境を整えることです。これには、誤字脱字とか、僕らジャンプ+編集部内では、バグ取りみたいな表現で言うことがあるんですけども、読者からしたら説明が足りてないとか意味が分かりづらいとか、もっとこういうふうにセリフを書いた方が読みやすいとか、そういった部分の精度を上げていければなと思います。
あとは、原画自体の画像を読み取って、そういうバグ取りとかアドバイスをもらえたらいいなと思いますね。

けんすう:AIが絵の表情や感情の度合いを判断できるので「このシーンは驚いているつもりだけど、驚き度は60%くらい。80%が適切かも。」とかできると良いですね。驚きと喜びが混在する表情にもっと驚きを加えるような指摘は、言語化しにくい部分ですが、できたら良いですね。
うちの場合、コストダウンも重要な取り組みで、いまコミコパはAIを積極的に活用していて、これがコストを抑えることにつながると、より新たな取り組みが可能になるため、このような方向で丁寧に進めることを考えています。

籾山:さっき少し話に上げた海外の翻訳とかも、できたらいいですね。

けんすう:そうですね。原稿を上げるだけでセリフが翻訳されたら、日本の出版社は違うというかもしれないけれど、海外の出版社は出版を望むかもしれない、そんな展開は面白いですよね。特に、翻訳後は「スペイン語でこれは正確か」や「不適切な表現がないか」のようなチェックが必要になります。

籾山:地味だけど、すごくありがたいですね。

けんすう:海外で「このポーズが差別的な表現だ」と炎上した例があるように、意図せずにそうした問題を引き起こすのは怖いですよね。そういった内容もチェックできたら面白いですよね。

籾山:実際にそうするわけではないのですが、例えばこの漫画雑誌だったら人気が高いのかとか、そういうのを予測する機能はできたりするんですか?

けんすう:面白いですね。データを基に「この漫画がジャンプ+っぽい」と分かるようになるかもしれませんね。また、漫画の一冊ごとの文字量を分析して、「文字が多すぎる」と指摘できる機能も役立ちそうです。文字量を減らし、シーンや表情で物語を語るように調整するのも、今後試みたいことですね。

籾山:もうちょっとフワッとした感じですけども「この作品を読んだら、あなたにとってはすごくいい刺激やいろんな発想がもらえます」みたいな、そういうアドバイスとかっていう機能とかも、できたりしますか?

けんすう:たしかに、それはありそうですね。「この作品も読んだ方がいい」とか「この映画は参考になるかも」という推薦ができるようになると便利ですね。あとは、その漫画雑誌らしいアドバイスができるようになったりすると、それぞれの編集部が重視するポイントや、よく指摘される点を事前に知ることで、持ち込み前から作品をブラッシュアップしやすくなるかもしれませんね。

籾山:特定の作品や担当編集者の性格、好み、タイプなど、様々な要素を設定できる機能がすでにあると思うんですが、これがさらに進化していくと面白いでしょうね。

けんすう:そうですね、いろんな歴史上の人物やブッダ、女子高生など、全く異なる視点での評価を組み合わせると、「あ、なるほど」という全然想像しなかったものが出てくるのが大事なので、それができると面白そうですね。編集者さんとの一対一のやり取りだと、どうしても個人の意見に偏りがちですが100人のように多様な意見を取り入れられると、面白い展開が期待できますね。


以上、第2部「漫画制作サポートAI『コミコパ』は何ができ、何を目指すのか」の模様をご紹介いたしました。



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