大事なのはキャラと、ツカみと、終わり方。現役編集者たちに教わる、Webマンガを作り込むテクニック

マンガノ豊田さん北室さん飯田さん対談メインカット

マンガを作り、そして届けるために、あの人たちはどんな工夫をしているのだろう。

今回、マンガ制作の裏側を教えてくれたのは、編集プロダクション「ミキサー」の現役マンガ編集者である、豊田夢太郎さん@yumetaro、北室美由紀さん@ktmrmiyukiのお二人。

紙とWebを横断しながら、さまざまな作品を手掛けてきた豊田さん。アプリネイティブの編集者らしく、数字をもとにロジカルな作品づくりを進める北室さん。そんなタイプの違うお二人が、マンガの編集方法や届け方、新人作家に知っておいてほしいマンガ業界の現況を縦横無尽に語ります。

編集者ならではの泥臭さや粘り強さを感じる仕事風景から、意外なほどに淡白なSNSとの付き合い方、エッセイマンガに対する鋭い分析まで。お二人が「作家の伴走者」として培ってきた知見や経験は、あなたの創作活動にもきっと役に立つはず。

【参加者プロフィール】

豊田夢太郎(とよだ・ゆめたろう)
実業之日本社・漫画サンデー編集部勤務を経て、2002年よりフリーランスに。小学館「月刊IKKI」ビッグコミックスピリッツ増刊「ヒバナ」、マンガアプリ「マンガワン」の専属契約編集者を経て、2019年より株式会社ミキサーに所属。以降、「マンガワン」「LINEマンガ」「モーニング・ツー」ほかで担当作品を持つ。ミキサー編集室編集長。

北室美由紀(きたむろ・みゆき)
ホテルマン・介護士を経て2008年、NHN Japan(現:LINE)に入社。2013年にマンガアプリ「comico」の立ち上げ、 その後「comico Plus」「Web版comico」の立ち上げも担当。担当作の多くをアニメ化、ドラマ化、映画化、舞台化させる。2019年より株式会社ミキサーに所属し、「マンガMee」「LINEマンガ」「めちゃコミック」で担当作品を持つ。

取材・文:飯田一史(いいだ・いちし)
出版社でカルチャー誌や小説の編集者を経験したのち、独立。マンガ、ネット動画などのサブカルチャー、ラノベ、Web小説などの領域で取材・執筆を手がける。単著に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』(星海社)『ライトノベル・クロニクル2010-2021』(Pヴァイン)『いま、子どもの本が売れる理由』『Web小説の衝撃』(ともに筑摩書房)など。

「読まれ方」「終わり方」をつねに意識

飯田一史(以下、飯田):本日はどうぞよろしくお願いします。今回の対談テーマは「作品発表の場が紙からWeb、さらにはアプリへシフトする中、制作者の仕事や作品づくりの方法論はどう変わったか」というものです。紙媒体とWeb媒体の現場、どちらも経験されてきたお二人だからこそ、作家さんの創作活動に役立つさまざまな知見を語っていただけるように感じています。

紙とWebの違いを浮かび上がらせるにあたって、まずはマンガづくりの具体的な方法にフォーカスしたいと思います。お二人は紙からWebへのシフトを、どのような面で強く感じていますか。

豊田夢太郎(以下、豊田):よろしくお願いします。僕はやはり「データ」だと思います。25年くらいこの仕事をしていますが、10年ほど前までは「雑誌は読者さんが固まっていて、クリエイティブの自由度が少ない。描き手が自由にアウトプットできる増刊をWebに用意したい」といった声を業界内でよく聞きました。

ところがデジタルメディアは紙以上に具体的なデータ(例えば読者さんの年齢や性別、他に読んでいる作品)が見えてしまう。それゆえ、投資対効果を最大化するため、読者さんを絞り込む方向にシフトしてきた印象があります。一方の紙の雑誌は今も昔も精密なデータが取りづらいせいか、むしろ「面白ければなんでもいい」という声を聞くようになった気がします。

北室美由紀(以下、北室):よろしくお願いします。私はWebの経験しかない編集者ですが、想定読者さんや作品の内容を決めるうえで、媒体ごとの評価指標を重視してきました。

その媒体で最も重視される数字はView(閲覧数)なのか、ARPU(課金額)なのか。前者なら10代、後者なら20代に向ける。10代向けの作品には青春、キュンキュン、理想、夢といった要素を盛り込み、20代向けの作品はオフィス、不倫、生き方、リアリティなどの軸を持ってくる。

また、「好き」や「いいね!」といった評価指標も意識します。女性向けの作品は傾向として、悪者を出すと「好き」や「いいね!」の数が伸び悩み、スカッとする内容にしたり、イケメンキャラのアップを入れたりすると伸びます。そうした細かいポイントを作家さんに伝え、内容をすり合わせます。

そして、読者のペルソナは「層」でなく、「人」で設定します。つまり、「丸の内に勤めている28歳のOLで……」といったディテールを詰め、その個人に訴えかけるべく作品を練っていきます。

飯田:なるほど。評価の指標によって、作品の作り方が変わってくるわけですね。

第1話の2ページでツカめ

飯田:紙、Web、そしていまではアプリもマンガ発表の一般的なツールになりました。それぞれの環境でクリエイティブを最適化するためのノウハウなどはあるのでしょうか。

北室:アプリで見られる縦カラーの作品(縦読みカラーマンガ)では、「塗り」にポイントがあります。厚塗りや水彩よりも、アニメ塗りの方が向いています。数ある作品のなかから自分の作品を選んでもらうには目立つことが大事で、アニメ塗りならパキッとした目立つ色味を出せます。それに、塗りの工数もおさえられます。とはいえ、本編も強い色調だと読んでいて疲れてしまうため、工夫が必要ですが。

作品の入り口であるサムネイルも重要ですので、マンガの本筋と関係なくても「サムネとして切り取りやすいコマの見せ方」を意識しています。

それから、毎回工夫しているのが1話の終わり方です。私は1話から2話への離脱率をもっとも重視していて。というのも、1話で離脱してしまう読者さんが非常に多いからなんです。また、今はほとんどのサイトやアプリで無料枠と有料枠があり、そちらの切り替わりでの離脱率も高いため「爆発が起きたところで終わる」「ドアを開けたシーンで終わる」など、まるで韓国ドラマのような引きを重視した終わり方を意識しています。

飯田:「読まれ方」が作品づくりに影響を与えるのですね。

豊田:私見ですが、紙ではかつて「単行本の1巻の終わり方をどうするか」の方が重視されていたのが、今は読者さんから「切られる」までのスパンが短くなっているように感じます。

縦カラーではないデジタル作品は「第1話の頭の4ページ、なんなら2ページでツカめ」と言われます。紙の雑誌では「人気の連載を追いかけるついでに読んでみるか」が成立したので、新連載も1話分読んでもらえる、という仮説が持てました。でも基本的に1話単位で読者さんと接触するデジタル作品の場合、新人作家の方の作品や新作は、冒頭でピンとこなければあっという間に読者さんが離脱してしまう。

だから、早くツカむのが大事です。プロットのバリエーションをあまり持てない作家さんの場合、ついストーリーを時系列で描こうとしますが、例えば異世界モノなら、人物紹介からではなく異世界で敵を真っ二つにするシーンから描く、といったようなことです。

エッセイマンガこそ「キャラが大事」

飯田:つまり「魅せる」テクニックが重要ということでしょうか。その他にも、デジタル作品を描く上で、大事なポイントはありますか?

豊田:これは紙でも同じですが、ストーリーよりも、絵よりも、キャラが大事です。紙の世界だと、「キャラマンガ」とは言いづらい良作も存在しますが、Webの世界ではなかなかそういう作品が成立しづらい。

飯田:例えば、出来事を主軸にしたエッセイマンガでもキャラが大事なのですか。

豊田:むしろ、エッセイマンガこそキャラに魅力がないと読まれないと思うんです。読者さんは「出来事の派手さや悲惨さ」ではなく「この人(主人公)がどんな目に遭っていくのか」を軸に読みますから。

例えば、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)の作者・永田カビ氏は、次の展開を読者さんに期待させるのが抜群にうまい。

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』コマ
©︎永田カビ/イースト・プレス

もしも永田氏があの作品で「レズ風俗 How To」を描いていたら、あそこまで人気は出なかったはずです。あくまで「レズ風俗を体験したこの子が一体どんな人生を送るんだろう」という読者さんの期待が、人気の背景にあったのだと思います。

北室:エッセイマンガでやりがちな失敗は、トライアル&エラーをしない主人公を描いてしまうことです。周りで起きたことに振り回されるだけの主人公に、読者は応援も感情移入もできません。自分でトライアル&エラーを繰り返すからこそ、「頑張れ、主人公」と思えます

豊田:出来事とそれに付随する感情を文章で並べたエッセイマンガも目にしますが、それでは「絵日記」になってしまいます。

そうではなくて、例えば主人公がお酒を飲んで入院したことを描くなら、すぐに「お酒を飲んで入院しました」と説明するのではなく、まずはお酒を飲みまくって気持ちよくなって万歳しているシーンを描き、ページをめくると、病院のベッドのうえで主人公が「なぜこんなことに……」というセリフとともに呆然としている、というような、そんなキャラの立て方とマンガ的な演出が必要です。エッセイマンガは絵が簡素な作品が多いからこそ、「体験のエッジがきいていれば大丈夫」と思いがちですが、そこは明確に違うと考えています。

対談中カット

マンガ編集者は何をしているのか

飯田:Webならではの作品づくりの要諦が分かったところで、次にマンガ編集者の仕事内容を深掘ります。お二人は普段、どんな仕事をしているのですか。

豊田:弊社は、僕と北室の2名しか現場の編集者がいない編集プロダクションです。二人とも、特定の媒体に所属せず、いろいろな出版社、いろいろな媒体に個別で作品を担当しています。現在、僕は主に、講談社さんの「モーニング・ツー」とLINEマンガさんで、北室は集英社さんの「マンガMee」やLINEマンガさんなどで連載を受け持っています。

飯田マンガノのユーザーには、編集者がつく前の作家さんも多いと思います。一般的に、マンガ編集者とはどのような仕事をしているのでしょうか。

豊田:作家さんから原稿をいただいて入稿し、ミスがないかをチェック(校正)して世に送り出すのが基本です。

もちろん、その前段階として、作家さんと「この媒体にはこういう読者さんがいるので、こういう方向性にしましょう」「ここは読みづらいからこう直しましょう」といった打ち合わせを重ね、作品の内容をブラッシュアップするのも編集者の仕事です。

これは掲載先が紙でも、Webでも、アプリでも、変わらないと思います。

飯田:おっしゃる通り、ここは変わらない部分ですね。一方、Webに作品発表の場がシフトしたことで、描き手を発掘するプロセスが変わったように感じます。お二人の場合、どのようなプロセスで描き手を発掘しているのでしょうか。

豊田:他媒体の編集者と同じく、Twitterや他の媒体で発表された作品を拝見し、DMなどでお声掛けすることが多いですね。

お声掛け後の方向性は二つあります。一つは作家さんの「やりたいこと」をベースに作品づくりを進めていくパターン。描きたいものがある作家さんには、「あなたの作品はこの媒体に向いているからここへ営業に行こう」と提案します。

もう一つは媒体側から「こういうものを求めています」と弊社にオファーがあり、それを踏まえて作家さんにご提案するパターン。当然ながら、企画が成立する確度は、前者よりも後者の方が高いのですが……。

飯田:では、お二人が担当することになった作家さん、声を掛けた作家さんに必ず訊くことはなんでしょうか。

豊田:「今、何を描きたいですか?」です。作家さんが「おもしろい」と感じていることを掘り下げたいと思っていて。企画成立の確度は低いのですが、そこはブレたくない。

同時に、「作家さんが描きたいもの」を媒体の要望に沿わせられるかどうかも確認します。例えば、掲載先が電子書店だった場合。今売れているマイクロコンテンツ(短い作品)は過激な内容のものも少なくありません。ですから、少女マンガのようなきれいなタッチの作品を描いていた作家さんなら、「このタッチで色気のある世界を描いたら、そこにも読者さんはいると思いますよ」と提案します。もちろん作家さんが興味を示さなければ、そこでおしまいですが、「描いてみたい」と言ってもらえたら、作風と媒体の要望をすり合わせながら方向性を整えていきます。

北室:私が必ず訊くのは「売れたいのか、自分の好きなものを描きたいのか、どちらの比重が大きいですか?」です。というのも、私の場合、数字を元に「この媒体ではこういうものが人気なので描きませんか?」とオファーすることが多く、ある程度そこに乗ってくれる方だとうれしいからです。作品が売れると、作家さんは金銭的にも、気持ちの面も満たされる。編集者としては、そうした成功を一人でも多くの作家さんに掴んでほしいからこそ、勝率を上げたいんです。

もちろん、「自分が意図しないマンガを描くくらいなら作家をやめる」という方もいらっしゃいますので、ミスマッチを避ける意味合いもあります。基本的に、作家さんには好きなものを描いてもらいたいのですが、ムリのない範囲で、ギリギリのところで「売れるかどうか」を考えています。

編集者に見つけてもらう方法

飯田:商業媒体で描き慣れていない新人さんの中には、「描きたいものはあるけれど、どこの誰に向けて描いたらいいか分からない」、あるいは「作品を発表した経験はあるが、ほぼ反応がない」という方も多いと思います。その場合、次にどんなステップが考えられるでしょうか。

豊田:例えば、創作同人誌の即売会「コミティア」で行われる「出張編集部」に参加してはいかがでしょう。小学館、集英社、講談社といった大手出版社のマンガ編集部から、新しいメディアまで、大小さまざまな媒体の関係者に作品を持ち込めます。

ただコロナ禍の中、そうしたリアルの場が失われていますので、当面の間はネットに作品を投稿し続ける、または自分でいろいろな媒体を探す努力が必要かな、と。

飯田:ただ、自分の作品について、編集者に対面でコメントされるのが怖いから、作品の持ち込みを嫌がって、Twitterやpixivなどに投稿して声が掛かるのを待つ新人さんもいますよね。

豊田:私見ですが、持ち込みは昔ほど怖くないと思います。今は作家さんの売り手市場なので、いい作家さんは奪い合いです。だから、編集者もなるべくいい印象を残したいわけですし、編集部や編集者の悪評はSNSで広がることもあるので、丁寧な対応を心がけられていると思います。

北室:そうはいっても「対面が怖いから持ち込みをやめた」と仰る作家さんも多いので、今は編集者からお声掛けする時代なのかなと私は思っています。

「投稿して声が掛かるのを待つ」ことと持ち込みにはそれぞれメリット・デメリットがあります。前者のメリットはハードルが低く、自分の好きなペースで続けられること。デメリットは能動的に編集者とつながれず、糸を垂らして待つしかないこと。

後者のメリットは編集者とつながれて、作品づくりの詳細なアドバイスがもらえること。デメリットは作品についてのフィードバックを受けるストレスがかかることですね。自分に向いている方を選ぶといいと思います。

豊田:作品づくりに関して、他人から口を出されたくない方は、個人でマネタイズする方法も今はあります。例えば、FantiaやpixivFANBOXといったコミュニティサービスを通じてファンに直接支援してもらう、もしくはSNSに発表した作品を電子書籍化するなど。

かつて、商業作家とは「自分の作品にISBN(編注:出版取次や書店で流通する出版物につけられる、書籍を特定するためのコード)を入れ、書籍として全国の書店に並べる人」でした。しかし、今や「本を出す」ことは、マネタイズの選択肢の一つに過ぎず、隔世の感がありますね。

いま、マンガ界は「人手不足」

飯田:マネタイズの側面から出版界の現状に触れていただきましたが、その他、新人作家さんに知っておいてほしい、マンガ界の現状について教えてください。

豊田:先ほども触れたように、今は歴史的に「作家さんの売り手市場の最高潮」だと思います。作品の掲載先である媒体やオリジナル作品を手掛ける編集部が増えたので、マンガ家さんは引く手数多です。24ページなり32ページの作品を1本仕上げる能力があるなら、すぐ仕事につながるのではないでしょうか。

新人さんの中には、こうした市場動向を知らない方も多い。マンガの編集部は「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」といった大手出版社の媒体や、「LINEマンガ」「ピッコマ」「マンガワン」といった有名アプリ以外にもたくさんあり、媒体によって求められるものは異なります。言いかえると、どんなタイプの描き手の方も、作品を発表し、ちゃんとお金がもらえる場が存在する可能性が高い時代になっています。

マンガ家さんにはこの時代と環境を最大限活用し、作品をたくさん、いろいろなところで描いていただきたいですね。たとえその時の作品が読まれなくても、気にすることはありません。出版社の編集者と話していても、ある作品がうまくいかなかった場合でも「この作家さんで次はこういうのが見たいです」と、次もバッターボックスに立つ機会を与えられることが多いです。

それに、もし単行本の刊行まで漕ぎ着けたら、初速の売上がいまひとつでも、電子書籍で細く長く売れてくれることもあります。3年かけて「必殺の一作」を描くより、「失敗を重ねながらも電子書籍を3年間で9巻分刊行できた」という方が、将来の自分を金銭的に助けてくれるかもしれません。例えば、TL(ティーンズラブ。女性向けの成年コミック)の作家さんには、ガラケー時代に描き溜めた作品を電子書籍化して売ったら月に何十万円か入ってくるようになった、という方もいらっしゃるそうです。

飯田:マンガ家の西島大介さんは著書『電子と暮らし』(双子のライオン堂出版部)の中で、「電子書籍は資産運用だ」と述べていました。SNSでバズを狙わなくてもコミックスの巻数があれば静かに売れていく、と。そういう売れ方があるということは、まだ単行本を出していない新人作家さんにはあまり見えていない部分かもしれません。

SNSはムリにやらなくてもいい

飯田:バズの話も出ましたが、今や創作活動とは切り離せないSNSの話をさせてください。「出版社は売れた作品以外宣伝してくれないので、作家自身がSNSでセルフプロデュースや情報発信を頑張らないといけない」という意見もあります。実際に、フォロワー数が多くないと声を掛けてもらえないと思っている新人作家さんや、フォロワー数を重視する編集者もいそうですが、お二人はどう思いますか。

北室作品づくりに集中できなくなるようなら、SNSはムリにやらなくていいんじゃないでしょうか。

豊田:僕も同じく、作品づくりに注力した方がいいと考えています。

ただ、頻繁に更新しなくてもいいので、アカウントだけは持っておいた方がいいんじゃないか、とは思います。仮にSNSを全部閉じてしまったとしたら、何をしているのかが外から本当に分からなくなり、仕事が来る、来ないに影響するかもしれません。

飯田:私の知人の編集者はフォロワー数の少ない描き手を「他社と取り合いになりにくい」とポジティブに捉えていましたね。

豊田:確かに、僕も絵が上手だけど、フォロワー数の少ない作家さんに声を掛けることはあります。ちなみに、単行本に関しては、作家さんのフォロワー数と売上は必ずしも比例しない印象です。フォロワー数はそこまで気にしなくてもいいでしょう。

「バズる=売れる」ではない

飯田:そもそも「バズる作品」と「単行本が売れる作品」は必ずしもイコールではないように思います。これはなぜだと思いますか。

北室:前者の読者さんと後者の読者さんでは、課金意欲に高低差があるからだと考えています。

豊田:確かに、媒体ごとに「客層」も狙い所も違います。バズる作品は、無料で読まれることを前提に、できるだけリーチを広げるため、短いページ数に強い要素を詰め込みます。「泣ける」「キュンキュンする」「怒る」みたいな感情に直接的に訴えかけてくる作品が多く、瞬間風速は出るのですが、その勢いと「お金を出してずっと手元に持っていたい」と思ってもらえることは必ずしもイコールではない。

つまり、作品を売る、という前提に立つと、「自分の作品が誰にどういう風に読まれ、どういう風に売れたいのか」を考える必要があります。でないと、キュンキュンする長編作品を描いてみたけど課金につながらない、ということにもなりかねません。出版社などが重視するのも、その作品に「お金を出してもらえるかどうか」です。

北室:SNSでバズった作品を単行本として売っていくためには、人気YouTuberのようなセルフプロデュース力が必要だと思います。作家さん個人に対する課金のモチベーションを作らなければならないので、かなりハードルが高くなってしまいます。

もし、単行本を売りたいのであれば、(単行本化が難しい縦カラー系以外の)媒体で連載する方が得策でしょう。連載を持ったうえで、SNSに作品への導線を貼ったり、作品のセルフパロディを投稿したりすると、うまく連動させられると思います。

その意味でSNSを使いこなせているのが、福満しげゆきさんです。『うちの妻ってどうでしょう』(双葉社)との連動は、まさに「単行本を売るためのTwitter運用」の成功事例と言っていいと思います。

縦カラーは日本でもハネる

飯田:最後に、この機会にマンガ家志望や新人に伝えたいことがあれば、一言ずつお願いします。

北室:縦カラーの媒体出身者としては、「ぜひ縦カラーの作品を描きましょう!」と言いたいです。縦カラーは今や世界で勝負できるコンテンツです。中国のような人口の多い国に向けて売れる作品を作ると、売上のケタも違ってきます。

また、モノクロマンガの技術はコマ割りに出ますが、コマ割りを修得するのは難しいです。ですから、若い作家さんこそコマ割りのコストが低い縦カラー作品に挑戦してほしいと思います。

飯田:WEBTOON(編注:韓国を発祥とする縦カラー作品の総称)ではコマ割りが必要なマンガとは違う演出もできますよね。例えば『ゴッド・オブ・ハイスクール』ではバトルシーンで主人公サイドのキャラが読者に完全に背中を向けて対戦相手と向き合う構図がよく用いられる。こういう構図は右ページから左ページへ、ページの右上から左下に向かって読んでいく紙のマンガでは視線誘導の流れに組み込みにくいのでなかなか使われない。でも上から下に縦スクロールして読んでいくなら、敵がこちらに迫ってくるような感じが出せて効果的です。

北室:縦カラー作品はマネタイズの手段がもう一歩確立されれば、日本でもブレイクすると思います。

豊田:僕からはただ一つ。何度も申し上げますが(笑)、今は本当に「マンガ家さんの売り手市場」です。だからこそ、失敗を恐れず、どんどん作品を描いていただきたいです。

【マンガノ運営チームより】
ここで学んだ「Webマンガを作り込むテクニック」は、今日からの創作活動に生きるはず。とっておきの作品が描き上がったら、ぜひ「マンガノ」に投稿してみてくださいね!


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