まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術

まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
(C)ヒロユキ/講談社

自身のこれまでの作品を網羅的に紹介できるマンガノの新しいポートフォリオ作成機能「MangaFolio(マンガフォリオ)」のリリースを記念し、第一線で活躍するマンガ家の先生たちに、ご自身の「ポートフォリオ」をテーマにお話を伺いました。

第一弾として登場いただくのは、『カノジョも彼女』『アホガール』(講談社)などのラブコメ作品で知られるヒロユキ先生(@burumakun)。先生は商業作品と同人作品を両立する「二足のわらじ」で活動する、多彩なポートフォリオを持つ作家さんです。そして、Twitterをはじめとするさまざまなプラットフォームで、自身の作品を積極的に発信し続けています。

「売る」ために、多様なプラットフォームをどのように活用して作品をアピールしているのか、同人と商業を両方やることのメリット、マンガ家として生き残っていくためのヒントに至るまで、余すところなく語っていただきました!

ひたすら描いてネットに上げて「当たるもの」を探ってきた

──ヒロユキ先生は今のようにSNSが盛んでない時代から、個人サイトを立ち上げるなどして、積極的に作品をアピールされていますよね。商業デビューする前から、作品を知ってもらうため、マンガ家になるために、どういった工夫や努力をされていたのでしょうか?

ヒロユキ:当時、個人サイトには1ページずつマンガをアップしていたんですが、アクセス解析でどの作品がよく見られているのか、反応をチェックしていました。

それと、人気がある他のマンガサイトを研究して、どう差別化していくのか、どうすれば目立てるのかをずっと考えて試行錯誤しましたね。

──目立つための差別化というと?

ヒロユキ:今と違って当時のWebマンガって、ラフ絵のままだったりして、そこまで作画レベルが高くなかったんですよ。だからスクリーントーンを貼ってきれいに仕上げしたり、「自分だったらこうするのに」と思うことを積極的に取り入れていました。

あとは、いろんなネタを片っ端から試しに描いては公開するの繰り返し。そうすると感触が良かったものに法則性が見えてきたんです。ひたすら総当たりで壁打ちして、一つ当たったら「よし次!」って。そうするうちに「俺はこういうマンガが面白く描けるんだ」って、自分の作風や方向性が見えてきました。

ヒロユキ先生
ヒロユキ先生

──そうやってPDCAを回すんですね。方向性を定めるきっかけになった作品はありますか?

ヒロユキ:ビジュアルノベルゲーム『月姫』の同人誌「だから俺はレンを襲う」ですね。この本が今の作風を決定づける一つのターニングポイントになっていて、ブラックなネタや、変態っぽい発言をする男のキャラに手応えを感じたんです。

『Len ~ヒロユキ月姫同人誌総集編~』
「だから俺はレンを襲う」は『Len ~ヒロユキ月姫同人誌総集編~』に収録されている

──「手応えを感じた」っていうのは、どういった部分でしょうか?

ヒロユキ:キャラクターの感情が大きく動くところです。でもこれは僕の好みというよりは、あらゆるマンガに当てはまることですけど。キャラクターの気持ちが大きく反応するところを、大きなコマで描くことを意識するようになりました。

「カノジョも彼女」1巻
「カノジョも彼女」1巻より (C)ヒロユキ/講談社

──確かに、ヒロユキ先生の特徴ですね。

この同人誌の評判が良くて、このインパクトを別のオリジナルのマンガでやったのがデビュー作の『ドージンワーク』(芳文社)なんです。

『ドージンワーク』
『ドージンワーク』(C)ヒロユキ/芳文社

──『ドージンワーク』のテイストは『月姫』の二次創作から得られたものだったんですね。

ヒロユキ:『ドージンワーク』『マンガ家さんとアシスタントさん』(スクウェア・エニックス)『アホガール』と続けて、自分のスタイルがいったん完成しました。

一番分かりやすいのが『アホガール』。4コマ目で、キャラクターの大きい顔でリアクションを取っているオチがめちゃくちゃ多いんです。

『アホガール』1巻より
『アホガール』1巻より(C)ヒロユキ/講談社

マンガは、何かが起こることでそこに対して動機が生まれる。それが行動につながって、誰かの反応が返ってくる。その反応が返ってきた瞬間が一番気持ちいいことが分かってきて、それをロジカルに作ると『アホガール』になったんです。

まずは「Twitterでバズる」ところから、段階を踏んでいく

──自分というマンガ家、また、自分のポートフォリオをアピールするためには、さまざまな手段が考えられます。仮に今、ヒロユキ先生がデビュー前の新人だとして、どう動きますか?

ヒロユキ:誰かの目に止まらなきゃバズらないので、とりあえずTwitterで4ページマンガを発信して、いろんなハッシュタグを付けるでしょうね。

二次創作とオリジナル、どちらでもいいと思いますが、僕だったら最初は二次創作で見てくれる人を増やすかな? まずは好きな作品のイラストやマンガを描いて、フォロワーを増やす。フォロワーが1,000人以上はいないと、戦いにくいと思いますし。面白いネタができたら拡散できるくらいのフォロワー数になったところで、オリジナルも混ぜていって……そんな感じでしょうか。

──でもTwitterでバズらせるって、けっこう難しいんじゃないですか?

ヒロユキ:いえ、バズるのって一番簡単なんですよ。

──ええっ!

ヒロユキ:「コミックスで売れること」を最終目標としましょう。その一つ下にあるのが「雑誌で人気を取ること」。その下には「雑誌に載ること」。その下に「同人誌が売れること」。その下に「ネットでバズること」。

──なるほど、ハードルが低いところから、一つずつクリアしていく目標を設置すると。

ヒロユキ:ゴールを考えると、バズることは一番下なので、難易度も低いと思っています。Twitterの4ページで実験するのって、めちゃくちゃ楽じゃないですか。描いて、出して、反応が悪かったらすぐに捨てればいい。その繰り返しで、自分の中に当たりを積み上げる。

──さっきのPDCAを回す話ですね。

ヒロユキ:Twitterでバズるのに比べたら連載を取るのは大変です。本当は面白いマンガなのに、編集者の好みに合わないと載らない、といった不確定要素も多い。でもバズっていれば、そこを突破しやすい。「この作品はTwitterでバズってます、同人誌も売れてます」と言えれば、説得力が増しますよね。

──バズった作品をもとに同人誌を作ることもできますが、出版社から声がかかったり、担当編集に持っていったりするなりして、商業誌に読み切りを載せることも選択肢としてはありますよね。そこについてはどう考えていますか?

ヒロユキ:読み切りを商業誌に1本、45ページ載せることは骨が折れます。人気を得られるかどうか未知数のマンガを、雑誌に1本描くのは、僕にはしんどいんです。それなら同人誌にした方がお金にはなります。でも、お金よりも大事なことは「お金を払って読んでもらえる価値があるかどうか」が、同人誌なら直接見られる。その理由が大きいんです。

──バズった先に、そこにお金が発生するかを見定めるんですね。

ヒロユキ:『カノジョも彼女』のプロトタイプの同人誌も同じ流れでした。商業でいきなり新連載を始めるのはリスクが大きくて、失敗した時に取り返しがつきません。最初はTwitterで試して、同人誌で出して「読者さんが1,000円を出すに値するマンガかどうか」を確認しました。リスク管理としては良かったんじゃないかなと。

──いきなり連載スタートだと、アシスタントを雇って、生活時間のほとんどをマンガにつぎ込むことが莫大なリスクになると。

ヒロユキ:はい、連載で失敗するのはダメージが大きいので、失敗を減らすための施策です。連載が始まるとコストが思いっきり上がってしまうから、不透明な部分はなるべく減らしておきたい。

たとえ読み切りが雑誌のアンケートで評判だったとしても、連載して単行本が売れるかどうかまでは、分からない部分が多いんです。

──コストが低い場所で実験をしていって、成功パターンを増やしていく。そこから段々とコストをかけて、連載をヒットさせるんですね。

ヒロユキ:特に新人さんがいきなり連載するのって、難しいと思うんですよね。連載していくうちに「これはウケそう」って肌感覚ではなんとなく分かるんですけど、最初の1話目に関しては、本当に出してみるまで不透明なので。

『カノジョも彼女』
『カノジョも彼女』(C)ヒロユキ/講談社

──何回も連載しているヒロユキ先生でも、ですか。

ヒロユキ:何年描いていても、です。「この新連載、いけると思うんだけど……どうかな?」って不安な状態で、僕は連載を始めたくないんです。不安を自信に変えるためにも、先にWebで出して、同人誌を出して、自信をつけてからコストをかけていきたい。

そういうお試しをせずに、一発目で連載して大ヒットしたら、そりゃもうめちゃくちゃかっこいい! でも僕はかっこよさよりは実を取るので、見栄は張らなくていい。読んでもらえないかっこいいマンガよりは、読んでもらえるダサいマンガを選びます(笑)。

──その発言がかっこいいです! Twitterは、マンガ家になる近道になるんですね。

ヒロユキ:拡散のしやすさと、画像4枚でも面白さを伝えられる利便性という点で、Twitterはマンガ家と相性が良いんです。

一方でYouTubeは、マンガ家とは相性が悪いと思います。僕も一応やっていますが、あまりうまくいってません(笑)。相性が良いマンガ家さんもいると思いますけど、全生活を掛けて超本気でやらないと、どうにもならないと思います。

──マンガ家とYouTubeの相性……どうしてなんでしょうか?

ヒロユキ:例えばイラストレーターの人が、イラストの描き方動画をアップすれば、それなりに需要はあると思います。

──同じように、マンガの描き方を動画配信してみればいいのでは、とも思えますが。

ヒロユキ:いや、マンガを描きたい人ってイラストを描きたい人よりも圧倒的に少ないんですよ。母数が全然違うから、どうにもならないと思います。

──なるほど、ニーズがまず少ないってことですか。

ヒロユキ:マンガは、お話を考えて、絵もいっぱい描かなきゃいけない。背景とか描きたくないものも描かなきゃいけない……つまり、マンガは面倒くさい!

──面倒くさいから、マンガを描きたいと思う人の数は限られる(笑)。クリムゾン先生伊東ライフ先生のようなYouTubeでの成功例は、極まれなんですね。

ヒロユキ:マンガ創作の話をするだけじゃなく、喋ることで聞き手を楽しませるというのは、もはやマンガを描く才能とは別の部分です。僕は喋れないし、芸人さんみたいにイケてるネタも持っていないからマンガを描いてるのに、その戦場で戦うの不利なんです(笑)。

「知ってもらう」ために、使えるプラットフォームは何でも使う

──先生はTwitterのほかにも、pixivFANBOXTikTokなどさまざまなプラットフォームを活用し、ご自身の作品について情報発信をされています。こういった新しいサービスを積極的に活用する理由は何ですか?

ヒロユキ:単純に、何をきっかけに自分のマンガを読んでもらえるか分からないので、入り口を増やす目的です。作品を作っていてあらためて感じるのは「知ってもらう」のって、何よりも難しいということです。どこで誰が読者になってくれるか分からないので、使えるプラットフォームは何でも使います。

──認知度の向上ですね。

ヒロユキ:pixivFANBOXは内向きのサービスなので認知度はさほど上がりませんが、TikTokに作画を早回しした動画とかを上げると、そこそこ見てもらえるんですよ。それに若い人がめちゃくちゃ多いTikTokには独自の世界があって、Twitterでは届かない人たちがたくさんいます。

そういう場所に「マンガを描いているヤツがここにいるよ」とアピールすることは、効果がゼロではない……と思うので、宣伝の一環としてやっています。手間もそんなにかからないので、やらないよりはいいかなって。

──フットワークが軽いですね。

ヒロユキ:フットワークの軽さで言うと、よくYouTubeで一緒に配信している宮島礼吏先生が最上級なので、彼に感化されている部分はあるかもしれないですね。マンガに限らず、何をどんなツールでプロモーションするにしても、一人でもフォロワーを増やしておくに越したことはないと思います。

マンガ家は、マンガを売らないとどうしようもないんです。僕はアニメも作ってもらって、大勢に力を借りています。アニメを作ってくださっている方たちにも還元したいので、その恩返しの意味でも、いろいろと露出は増やすようにしています。アニメの関係者には「このタイトルに関わって良かったな」って思ってもらいたいんです。

商業と同人の両立は、収入の安定にもつながる

──ヒロユキ先生は、商業をやりながら同人誌も出していますよね。商業と同人を並行している時、どのようにタイムマネージメントされているのでしょうか?

ヒロユキ:気合……気合です!

──精神論きちゃった……!

ヒロユキ:商業の締め切りが終わった直後に、同人の締め切りが2日後だとします。だったら2日で完成させられるものを描く。それだけです。

──期限から逆算して内容を決めるんですか? 2日で1冊って、相当大変なことだと思うんですが……。

ヒロユキ:そりゃもうめちゃくちゃ大変です! その2日間は地獄です(笑)。

──そこまでして両立させる動機って何でしょうか?

ヒロユキ:僕は年間に貯金する金額を決めているんです。商業で連載してると、単行本が◯冊だから、今年はこれくらい足りない……ってすぐに計算できます。じゃあ夏と冬に2冊ずつ新刊を出すぞ、みたいに全体の帳尻を合わせることができると、収入が安定します。

──収入源が多いとマネープランを立てやすいんですね。

ヒロユキ:そうです。目標に足りないからって、もう1本連載を増やすのは大変だし、売れるかどうかも分かりません。同人誌の方が全体的な売上も読みやすいんです。

──ちなみに、商業と同人で「ウケるマンガ」に違いはありますか?

ヒロユキ:同人誌と商業の一番大きな違いが、値段の違いだと思うんですよね。

商業だったら200ページのマンガが500~800円くらいで売られています。同人誌だったら30ページで500円くらいの相場なので、実入りが圧倒的に良い。なので同人誌の方が低いコストで稼げることは間違いありません。ですが少ないページで商売になるマンガの内容って、レンジが狭いんです。

30ページくらいで500円を払えるものって限られます。コレクション性があるとか、エッチなものであるとか。逆に商業でヒキの強いマンガのジャンル……例えばデスゲームものを同人誌で描いても、売れるイメージがありません。

──同人誌で売るにはコレクション性が必要……確かに、私も同人誌を買う時に、それを求めてお金を出しています。

ヒロユキ:女の子がかわいかったり、エッチだったりすることには、ページ数は関係ないので。商業の200ページに財布を開かせるのとでは、戦い方が違うんです。

「女の子がかわいい」でもなんでもいいので、30ページで500円払ってもらうにはどうすればいいのか。それを考えることは商業連載でも生きてくると思いますし、非常に重要なことだと思います。

──収入以外で、商業と同人を両立するメリットはありますか?

ヒロユキ:商業も同時にやっているから、モチベーションが上がるというのはありますね。

言い方はあれですけど、同人誌って1,000部や2,000部売れれば、商売としては成立します。でも僕の場合は、その環境では「もっと上に登りたい」って意欲が出にくい。一方商業は天井がないから、「もっともっと」ってやる気が出ます。関わる人も多いので、「みんなで一緒にがんばりましょう」って気持ちにもなりますね。

マンガ家は良い職業だし、リスクを下げて戦う方法もある

──先生は以前からマンガ家の「稼ぎ方」や「生存戦略」について、同人誌やTwitter、インタビューでもたびたび熱く言及されています。こういったノウハウを積極的に発信される理由は何ですか?

ヒロユキ:大きな理由としては、マンガ家は儲からないと思われて、マンガ家を目指す人が減ってほしくないからです。大変な面もありますが、僕はマンガ家って、すごく良い仕事だと思ってます。

面白いし、やりがいもあるし、うまくいった時のリターンもそれなりにある。だけどネットに上がってくるのって「マンガ家をやっていてうまくいかない話」ばかりですよね。

──負の情報の方が広がりやすいのは、ネットの特性ですからね……。

ヒロユキ:もちろん、普通にマンガ家を目指していても失敗する確率が高いのは理解しています。運ゲーにするのはキツい。だから、リスクを下げて確率を上げて戦えば、良い仕事だよっていうことは、ちゃんと伝えていきたいんです。

──先ほどの、SNSから段階を踏んでいくやり方ですね。

ヒロユキ:本当に才能に溢れていて、「ジャンプに載せれば大ヒット!」みたいな超天才は、別にそんなことをやる必要はありません。ですが、そうじゃない人は、マンガ業界はどうしても運ゲーの要素が強いので、リスクをなるべく減らして戦った方がいい。

生き残っていく確率を上げる方法は時代によって変わってくると思いますが、それを真面目に考えていけば、失敗する確率は減らせると思います。

──先ほどからヒロユキ先生の生存戦略やノウハウを開陳してもらったわけですが、競合相手やライバルを増やすことにつながりませんか?

ヒロユキ:どうなんでしょうね? 僕って、みんなが描きたがるかっこいいマンガは描いてませんから競合しないんですよ。ダサいマンガを描いているので。

──「カノジョも彼女」はダサくないですよ?

ヒロユキ:だって二股するマンガですよ、誰が描きたがるんですか! でもかっこ悪いマンガでも、読んでくれた人たちが楽しんでくれれば、僕はそれで満足なんです。

──あの◯◯を描いた先生ですか!みたいに、作者が尊敬と憧れの目で見られないという話ですね。

ヒロユキ:そういうふうに憧れられて、目指す対象にはならなくていいんです。僕はダサいマンガを描き続けて、自分が楽しんでるので(笑)。

10万部売れるマンガが「なぜ売れるか」を分析する

──以前、別の媒体のインタビューで「売れているマンガは一通り1巻目をチェックする」とおっしゃっていました。マンガ家になるなら、アンテナを張ることは必要ですか?

ヒロユキ:僕は、言うほどアンテナは張ってないです。でも10万部売れてるマンガって何か「一点突破の売り」があるんで、そこはチェックして分析しています。

──売れているマンガの、売りの部分をご自身の作品に取り入れるということですか?

ヒロユキ:いえ、僕の場合、他人のマンガを参考にして自分のマンガを描くことってないんですよ。

人気作品をチェックするのは、「あのマンガが10万部売れるんだったら、自分のこれは7万部くらいかな?」って、スカウターの精度を上げる意味合いが大きいです。頭の中にそういう"ものさし"を作るには、ラブコメに偏らずさまざまなジャンルを読む必要があって、全体的に押さえておくと精度が上がっていきます。

逆に100万部以上売れてるマンガは、ものさしが機能しないんですよね。そこまでいくと一点突破じゃなくいろんな要素が複合的に絡み合って、総合的に売れているので、ものさしになりにくいんです。

なので僕は10万部くらいのマンガを読んでいる時が一番「そうそう、分かる!」って感じます。僕のマンガがそのくらいの部数になりがちなのは、多分そういうことなのかな(笑)。

──映画やドラマのような、別のエンタメのヒット作については参考にしますか?

ヒロユキ:面白くは見ますけど、マンガを売るって観点だと、最適解は「マンガを読むこと」になっちゃうんですよね。

──直接のヒントにはなりづらい?

ヒロユキ:そもそもマンガと映像作品ってメディアが違うので、得意なところと不得意なところが違います。

例えば映画の銃撃戦やカーチェイスって、それだけで興奮するじゃないですか。でもマンガでそういう場面を描いても、音もなければ絵も止まっているので、映画ほどの迫力は伝わりづらい。

でもマンガは「銃撃戦をすることによって、キャラクターの感情がどんなふうに動いたのか」を描くのは得意なんです。

──なるほど。

ヒロユキ:もちろん、映像から着想を得てマンガに落とし込むのも一つの手です。でも僕の場合は「マンガを読んでいる人たちが、何をたくさん読んでるのか。どういうマンガが今、読まれてるのか」それが情報源としては一番強いというのが、個人的な見解です。

その内容で「自分のテンション」は上がっているか?

──では、先生が自分の作品の内容を考える上で、意識されていることってありますか?

ヒロユキ:作画用のiPadを置く台に、「その内容であなたはテンション上がってる?」ってふせんが貼ってあるんですよ。僕が今、気を付けていることです。

「その内容であなたはテンション上がってる?」と書いたふせん

──頭で考えて、意識するだけではダメ?

ヒロユキ:書いておかないと忘れるんですよ、マンガって成立させること自体は難しくないので。でも、「成立はしているけど、これで面白いのか?」って疑問符がつくことがあるんです。

ただ成立させるんじゃなくて、テンションが上がる成立のさせ方をするのが、一番難しい。でも、そこを一番にやらなきゃ面白いマンガは描けません。

──同じものをずっと描いていると初期衝動がなくなって「何が面白いか分からない」って状態、創作の「あるある」だとよく聞きます。

ヒロユキ:ラブコメの場合は……ざっくり言えば股間に聞けば分かる!

──下半身にくるかどうか、リビドーに聞けと(笑)。

ヒロユキ:そうです、その方が信用できるじゃないですか(笑)。成立するからOKじゃなくて、その内容で自分は楽しんでいるのか、テンション上がってるのか。自分が楽しいって思えるまでアイデアを絞るのが難しいですね。

10年ほど前に書いたというメモ
こちらは10年ほど前に書いたというメモ

「良い絵」を目指して描くようにしたら、楽しくなった

──ヒロユキ先生はよく「ペースダウンしたい」とおっしゃっていますが、週刊連載に加えて各SNSの活動など、むしろワーカホリックに見えます。

ヒロユキ:今回は『カノジョも彼女』のアニメ化が早かったんで、バタバタしたままここまで来ちゃったんですけど、ここからです。もう僕は無理をしないって人生の舵を切ったので(笑)。

『アホガール』の時、途中で週刊連載をリタイアしちゃったので、同じことを二度もしたくない。週刊連載を義務感でやると、マジで心が死にます。だから『カノジョも彼女』では、自分がしんどくならないように働き方を工夫しています。

──どういった工夫ですか?

ヒロユキ:作画を作業にせず、がんばって良い絵を描こうとしてるんです。今までの僕は、描き上がることを目的に描いてたんです。今は、ちゃんと良い絵を目的に描いてるんです。

──その違いは……?

ヒロユキ:作業で描き終わることを目指すのは、時間はかからないんですけど、つまらない。だからしんどい。

「良い絵を描こう!」って決めた方が、時間はかかるんですけど楽しいんです。良い絵を目指した方が、絵で喜ぶ人も増えるし、良いこと尽くしです。

──デビューからやっと、今になってそこにたどり着いた感じでしょうか?

ヒロユキ:そうですね、ものすごく遠回りしました! 自分が楽しめないと、特に週刊連載なんて労働環境がブラック過ぎますから(笑)。

マンガは「義務感」や「仕事だから」って理由では続きません。仕事を楽しむ工夫をするのが大事ってことですね。

──先生自身が楽しむことで、作品にも還元されていきますしね。本日はありがとうございました!

【マンガノ運営チームより】

マンガフォリオ

マンガノで新機能「MangaFolio(マンガフォリオ)」がリリースされました!

マンガノ掲載作品だけでなく、同人誌、Twitterをはじめ、Kindleなどの電子ストアで公開している作品など、作家さんが手がけた"すべての作品"を、ポートフォリオとして一覧化して紹介できます。

この新機能を利用し、あなたのポートフォリオの魅力を伝えてみてください!

ヒロユキ

マンガ家。2004年に代表作に『ドージンワーク』(芳文社)でデビュー。代表作に『アホガール』(講談社)『マンガ家さんとアシスタントさんと』(スクウェア・エニックス)など。2020年から週刊少年マガジン(講談社)で『カノジョも彼女』連載中。商業誌で執筆する傍ら、個人サークル「自称清純派」での同人活動も続けている。

Twitter:@burumakun ブログ:自称清純派


(取材・文:かーずSP