玉森さんは普通の女の子

玉森さんは普通の女の子

執筆にあたり、特にキャラクターのドラマを意識しました。どの作品もキャラクターの心情が始めと終わりで変わっているように制作していましたが、この作品は特に心情の変化を丁寧に追うことを目標としました。読者はみなキャラクターを通して物語に共感し、キャラクターの変化やそのための努力に感動すると思ったからです。そのような意識を持ちながら、草田君のインパクトある出場に嫉妬する玉森さんを冒頭で描き、玉森さんの過去を交えて、読者に彼女の苦しみとそれゆえの夢を早い段階で提示し共感させ、暗くなった雰囲気を少し明るめにするためのコメディ要素を入れつつ、望みが叶いそうなところで玉森さんを転落させ、彼女に試練を与えました。思わぬ悪口を聞いた玉森さんに対して、草田君は彼女を励まそうとしますが、彼女の視点からして、悩みもなく正体を隠すどころかそれを強みとする少年の存在は、好かれようとするも叶わなかった彼女にとって、皮肉に映ったのです。それゆえに彼女は草田君を拒絶しますが、それがきっかけで、彼女は草田君が隠してきた辛さを知ることになるのです。そして最後彼女はもう一度試練を受けます。しかし、彼女は迷いません。彼女にとってまさに理想的な存在だった草田君ですら、すべての人間に好かれていないことを知ったからです。